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Makiko Mizuno
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ハワイの法廷通訳人たち
3月末に1週間ほど、ホノルルに法廷通訳関連の調査に行きました。ハワイはすでに何度も訪れていますが、英語の通訳の付く裁判は非常に少ない日本に比べ、日本語-英語間の法廷通訳がつく裁判の数が多く、1回の訪問で複数のケースが傍聴できるので、研究目的で訪れるには最適の場所です。

ハワイ州最高裁前 カメハメハ大王像
最高裁前 カメハメハ大王


今回、3名の日本語-英語間の通訳者を知ることができました。その内の2名は個人的に話をすることができ、ハワイの法廷通訳事情について、たくさんの情報をいただきました。もう一人の通訳者については、個人的に話はしなかったのですが、裁判傍聴を通して、その仕事ぶりをじっくり観察することができました。

うれしいことに、今回、これら3名の通訳者を通じ、優秀な法廷通訳人とはこうあるべきだというモデルを目の当たりにすることができました。とにかく、3名とも、日本語と英語が驚くほどうまく、しかも、通訳の技術も高くて、裁判所から大変高く評価されている人たちでした。

ここで、1つ、傍聴したケースを紹介しましょう。個人的に知り合いになり、インタビューにも答えてくれた通訳人Sさんが原告側の通訳人として付いた民事事件の裁判です。Sさんの勧めで、これを傍聴しました。

ハワイ州最高裁法廷
ハワイ最高裁①


これは大家と借家人とのもめごとの裁判でした。原告と被告それぞれに別の通訳人が付いていました。私が傍聴した部分は、被告側の証人尋問で、被告側の通訳人が訳しました。面白かったことに、まず、原告側から、被告側の法廷通訳に関する異議の申し立てがありました。これは、通訳人がハワイ州の通訳人研修を受けていないので、通訳人として不適切だというような内容でした。そこで、通訳人の通訳者としてのこれまでのキャリアを問う質問がされたのですが、それによると、彼は長年、SONYなどの日本の通訳をやっており、司法よりもビジネスや会議などの一般通訳の経験が長い人のようでした。結局、そのキャリアで十分だということになり、そのまま裁判が始まりました。

その後の手続きにおいても、原告側の弁護人から、訳し方の手順など、通訳に関する色々な「いちゃもん」とも言える異議が申し立てられました。通訳人は非常にやりにくかったことと思います。でも、彼の通訳内容は、傍聴席にいて聞いている限り、とても素晴らしいものでした。私がこれまで日本の法廷で傍聴した英語の通訳人の誰よりも正確な通訳でした。それほど完ぺきだったのです。

その通訳人は白人男性で、もちろん日本語のネイティブではなく、ほんの少しだけニュアンスの異なる訳語選択を、ごく限られた回数することはありましたが、それ以外では本当に正確な通訳で驚きました。発言者が途中でためらったりしても、それをその通りに通訳していましたし、細かいニュアンスをもつ言い回しも、ほぼ正確に訳していました。情報が落ちるなどということは一度もありませんでした。私は、法廷通訳は「何も足したり引いたり編集したりせず、そのまま訳さなければならない」と、常に言ってきたのですが、心のどこかでは、これは理想論で、そんな正確な通訳は無理かもしれないと思っていましたが、今回、ハワイの法廷で、ほぼ100%正確な通訳を目の当たりにし、その考えは捨てました。優秀な人材なら、100%正確な通訳に限りなく近くなれるのです。

通訳人のSさんは、自分の出番を待って傍聴席にいましたが、後で聞いたとところでは、被告側の通訳は、ほとんど問題のない良い通訳だったという感想でした。そして、驚くことに、私が気付いた訳語のほんのわずかなニュアンスの相違について、Sさんも同じことに気付いていたのです。Sさんも日本語のネイティブではありません。それなのに、そんな細かい日本語のニュアンスについても、ちゃんと分かっていたのです。Sさんの方が被告側の通訳人よりも実力が上だということでしたが、そのレベルの高さがうかがえます。

Sさんは、自ら通訳翻訳事務所を経営し、ビジネスや会議など、色々な通訳の仕事をしておられ、法廷がメインではありません。それは、先に述べた私が傍聴した裁判の通訳人も状況は同じで、市場原理の働くところで仕事をしている人たちは、やはり、それなりの実力を持っているというよい例でしょう。日本のトップクラスの会議通訳者のレベルに比べても遜色はないと思います。

Sさんについては、本当に驚いたのですが、日本語を話す弁護士さんたちと定期的に司法通訳に関するセミナーを開催しており、私もそれに参加する機会をいただきましたが、内容は立派なユーザー・トレーニングになっていました。進んで通訳人から定期的に研修を受ける法律家たちのオープンな姿勢にも感心しました。日本の法律家にも見習ってもらいたいものです。

もう一人知り合った法廷通訳人の日本人女性Aさんがいますが、Sさんに言わせれば、Aさんはハワイの日本語の通訳人の中での最も優秀な人だそうです。彼女が通訳しているところを見たことはありませんが、その英語の素晴らしさは完全にネイティブと同じでした。しかも、法廷通訳をするには法律を知らなければならないと、コミュニティ・カレッジでパラ・リーガルのコースを受講しているという熱心さです。そのプロ意識には感服しました。

今回出会った3名の法廷通訳人は、おそらくハワイ州でもトップクラスの人たちだと思いますが、本当に優秀な法廷通訳人というものが存在することがわかり、安心しました。日本の法廷でまかり通っている、不正確な通訳についての「許容範囲論」など入る余地のないほど正確な法廷通訳は、人材次第で、ちゃんと実現するのです。

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Makiko Mizuno
「司法通訳」新情報


シンポジウムのお知らせ
 第1審の通訳が問題になって控訴されている「べニース事件」については、当ブログその他で色々な形で取り上げられています。いよいよ6月2日に公判が開かれますが、鑑定書という形で表明された言語学者の意見を法律家がどの程度受け入れるのか見ものです。

 今回、法と言語学会・法と言語科学研究所共催でシンポジウムを行うことになりました。「司法過程における言語鑑定の在り方」がテーマです。法廷通訳の問題だけでなく、様々な分野で法言語学者の知見が有効に利用されうることについて、各分野の専門家が議論します。



日本学術振興会科学研究費補助金・新学術領域研究
「裁判員裁判における言語使用と判断への影響の学融的研究」公開シンポジウム

          法言語学の将来像

-司法過程における言語鑑定のあり方-


日時: 2010年6月13日 12:30~17:00
場所: 明治大学駿河台キャンパス・リバティタワー16階1166

第一部 「言語学鑑定の利用に向けた課題と展望」
英米では様々な司法過程で言語学者の知見が鑑定として利用されることは珍しくない。しかし、我が国では言語学鑑定が利用はごく限られた形でしか行われてきていない。このパネル・ディスカッションでは、言語学鑑定の利用に向けた制度的・運用的課題と今後の展望について、刑事訴訟法の研究者および社会科学の中でも最も頻繁に鑑定に利用されている法心理学の研究者を交えて討論する。

パネリスト 指宿信(成城大学法学部教授・法と心理学会副理事長)
藤田政博(関西大学社会学部准教授・法と心理学会理事)
大河原眞美(高崎経済大学大学院地域政策研究科長・教授・法と言語学会会長)
司会 堀田秀吾(明治大学法学部教授・法と言語科学研究所所長)

第二部 「法廷通訳の正確性と鑑定について」
2002年の「ニック・ベイカー事件」と2009年の「ベニース事件」は、従来型裁判と裁判員裁判という違いはあるが、控訴において第一審での 司法通訳の正確性が争点となり、通訳の正確性に関する鑑定書が提出された事件である。担当弁護士がそれぞれの事件の詳細について紹介すると同時に、両裁判 の鑑定人が通訳の正確性の鑑定とはどのようなものか、そのポイントについて解説する。そして、通訳に関する鑑定のあり方について、全体で議論する。

パネリスト 宮家俊治弁護士(第二東京弁護士会)
渡辺修弁護士(大阪弁護士会・甲南大学法科大学院院長・教授)
水野真木子(金城学院大学文学部教授・法と言語学会副会長)
司会 中村幸子(愛知学院大学文学部准教授・法と言語学会理事)

共催: 法と言語学会・法と言語科学研究所
Makiko Mizuno
「司法通訳」新情報


法廷通訳の正確性をめぐる議論について
 「ベニース事件」の法廷通訳の正確性をめぐる鑑定結果が新聞等で公表されたことをきっかけに、様々な議論が行われています。その内の多くが、かなり見当はずれであることが大変気になります。

 まず、「通訳というものが、そんなに誤訳やエラーが多いのであれば、これは一大事だ」という危機感あふれる議論ですが、これは、通訳なんて誰がやっても同じであるという前提に立つものです。現実問題として、通訳人すべてが誤訳が多いわけではありません。大変優秀で、法廷でもほとんどミスをしない通訳人も多くおられます。

 次に、「通訳人も、本当に大変な仕事をがんばってやっているのだから、責めては可哀そうだ」という議論です。時には法律家が「通訳のみなさんは一生懸命やってくださっていて、とてもありがたいと思います」というようなコメントをされます。全力を尽くして頑張っているのだから認めてあげよう、とか、責めるべきではない、というような意見は、まるで小学校の運動会レベルの議論だと言わざるを得ません。運動会だから、「一生懸命走ったのだから、ビリになっても立派だよ。」と言えるのです。

 法廷通訳にとっては、がんばってもがんばらなくても、全力を尽くしても手抜きをしても、通訳が正確にできれば、どっちだっていいのです。結果が全てです。いくら一生懸命がんばっても、正確に通訳をすることができない人は法廷に立ってはいけないのです。被告人の人生を左右する場です。どんなに全力を尽くしても、能力が低かったら、やってはいけないのです。

 このことを「通訳」という文脈で語っても、理解しにくいかも知れません。では、こういう例はどうでしょうか。自分の友人が盲腸炎で苦しんでいる。何とか助けたいので、医師免許がないのに手術をしてしまった。その結果、友人は死んでしまった。もし、こういう事件が起こったら、人は何と言うでしょうか。一生懸命頑張って手術をしたのだから、責めては可哀そう、と言うでしょうか。まず言わないと思います。医師の資格もないのに手術をしたことに対して責任を問うのが普通だと思います。仮にその友人が助かったとします。それでも人は、資格がないのに手術をすることに抵抗を感じるはずです。法廷通訳についても、そのように厳しいスタンダードが守られるべきです。法廷は小学校の運動会ではありません。手術室と同様、人間の命を扱っている場所なのですから。

 一般的に会議通訳の世界は非常に厳しいです。水準以下の通訳者は市場原理によって淘汰され、優秀な人材だけが残ります。ところが法廷通訳の世界はそうではありません。出来る人と出来ない人が、全く同じ待遇を受け、問題があっても誰も何も言いません。実際、法廷通訳人の能力の上下のレベル差は、毎年100回以上手術をしてきた超ベテランの外科医と医学部1年生の学生の差ほどもあるのです。でも、資格認定制度がないこと、そして、市場原理が機能しない分野であることから、「通訳能力が不十分な人」を排除できません。これが日本の法廷通訳制度の最大の欠陥です。

 法廷通訳という問題について、関係者が正しい認識を持ち、議論が誤った方向に進んでいかないことを願っています。
Makiko Mizuno
「司法通訳」新情報


「ベニース事件」控訴・・・通訳をめぐる鑑定書について

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Makiko Mizuno
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外国人事件の裁判員裁判
 9月8日に外国人を被告人とする裁判員裁判が埼玉で行われることになりました。フィリピン人の事件だということですが、全国初ということで、各方面から大きな注目を浴びています。

 これまで、要通訳事件で、通訳人の介在が裁判員の判断にどのような影響を及ぼすかという実験をやってきましたが、ちょうど9月5日6日に行われる日本通訳翻訳学会の年次大会で、コミュニティー通訳分科会のプロジェクトとして、この問題を取り上げた新たな実験を行うことになっています。あまりにもグッド・タイミングで、ちょっと驚いていますが、マスコミの取材もいくつか入ることになりました。

 今回の実験では、弁護人質問の場面でいくつかのシーンを取り上げ、それぞれに複数の異なる通訳バージョンを用意し、それを録画したDVDを見せて、その印象についてアンケート調査をするというものです。

 この実験に先がけて、過去2年間にわたり、模擬法廷を行ってさまざまなデータを取ってきましたが、このような研究が最近注目され始め、私が企画したプロジェクトも、文部科学省の研究助成金(科研費)の対象になりました。また、一緒に「法言語学」という学問分野の発展に向けてがんばっている研究者たちのプロジェクトも、科研をはじめ各種助成金の対象となっています。

 裁判員制度導入が、「法廷コミュニケーション」という1つの学問領域の発展のきっかけとなりました。今後、多くの優れた研究成果が生みだされていくことが期待されます。私も、法廷通訳の問題を軸に、この研究の発展に貢献できるよう、がんばりたいと思っています。

 
Makiko Mizuno
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