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Makiko Mizuno
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異文化伝心(8)
異文化伝心 (8) 「暴れん坊将軍」は凶暴?

 かつて一世を風靡した「マツケン・サンバ」のことは今だに記憶に新しい。はじめて見たときは、唖然・・・!マツケンもついに離婚(当時、松平健と大地真央は離婚したばかり)のせいで自暴自棄になってしまったのかと、ちょっとショックを受けました。でも、あのキンキラキンの江戸時代の装束とダンスは、かなりシュールで、なかなかのものでした。
 さて、このマツケン・サンバですが、海外のメディアでも取り上げられました。「日本の有名サムライが、サンバに合わせて腰を振る!」というような見出しでセンセーショナルに紹介されていましたが、そのうちリオのカーニバルに参加するのでは、という憶測も流れたほどです。
 ニューヨーク・タイムズでも、このトピックが取り上げられましたが、記事の中にこんな表現がありました。
「Violent Shogun として有名な彼は、・・・・・」。これを見て、えーっ!とびっくりしました。(Violent Shogun はないでしょう。)きっと、「暴れん坊将軍」を直訳したのだと思いますが、Violentは、普通、「暴力的な」とか「凶暴な」という意味で用います。辞書を引くと、確かに「暴れる」は“behave violently”と訳してあります。そして、「暴れん坊」については ”rowdy”(乱暴者、荒くれ者) ”hooligan”(ごろつき、悪党)のような言葉が出てきます。
 では、日本人にとって「暴れん坊将軍」の「暴れん坊」とは、どんな意味になるのでしょう。正義の味方のヒーローですから、決して悪いイメージは湧かないはずです。「暴れん坊」という表現には、ある種の好意が込められています。「政界の暴れん坊」と言ったら、既成概念に囚われず、自分の思ったことを堂々と言ったりやったりする政治家を指すのです。
 「暴れん坊将軍」の場合もそうです。江戸時代の将軍様といえば、政治のことは老中や側用人たちに任せっぱなしで、自分は優雅に学問や遊びにふけっている、現実感覚の乏しい「ひ弱な殿」や「バカ殿」タイプが浮かんできます。もちろん、例外もあります。そして、その典型が徳川吉宗ということになっています。だから、「暴れん坊将軍」なのです。つまり、将軍らしくなく元気で賢くて、武芸にも秀で、庶民のことも良くわかり、何事も一生懸命な素敵な将軍、というニュアンスがすべて、「暴れん坊将軍」という言葉に込められているわけです。
 ニューヨーク・タイムズの記事を書いた人がどんなバックグラウンドを持つ人か知りませんが、テレビで「暴れん坊将軍」を見ていれば、あるいはその内容を知っていたら、こんな訳語はつけなかったはずです。ただ盲目的に辞書を引いて付けた訳語だと思いますが、これは誤訳だと言わざるを得ません。
 さらに悪いことに、「将軍」という言葉はアメリカ社会に深く根付いています。“shogunate”(将軍の、幕府)というような、日本語と英語が合体した言葉も生まれました。なぜ「悪いことに」なのかというと、このshogunという言葉の持つイメージは、日本人のそれとはかなり違うからです。Shogunとは、古い時代の日本の武力の象徴であり、非常に好戦的なイメージで受け止められています。みやげ物屋でおもちゃの日本刀を振りかざして「I am Shogun !」と言って喜んでいるアメリカ人観光客をよく見かけます。
 ニューヨーク・タイムズの記事では、そのような好戦的なイメージを持つ“shogun”という言葉に、さらに
“violent”という形容詞が付いてしまったのです。おそらく、それを読んだアメリカ人は、とても凶暴で恐ろしげなサムライを思い浮かべたでしょう。「暴れん坊将軍」という日本語と“Violent Shogun”という英語との間の意味とニュアンスのギャップは、それほど大きいのです。「辞書の言葉をそのまま信じてはいけない」と、よく言われますが、言葉というものはそれが使われる状況によって意味を持たされます。そこをいかに適切に判断するかが、翻訳者、通訳者の腕の見せ所なのです。
 でも、いかにも凶暴そうなジャパニーズ・サムライがサンバに合わせて腰を振っているという光景のほうが、たしかに記事としてはセンセーショナルですね。


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Makiko Mizuno
エッセイ(通訳のジレンマ)


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