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Makiko Mizuno
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異文化伝心 (10)
「ホスト」か「ホステス」か

 「異文化伝心 9」でご紹介したニューハーフの被告人の裁判には、もう一つエピソードがあります。人定質問でのことです。
 人定質問とは、裁判のはじめに、被告人の名前や住所、職業など、起訴状記載の内容に間違いがないかを確かめる手続きです。その際、裁判官が「あなたの職業は?」と尋ねると、被告人は「ホステスです。」と答えました。すると、裁判長はじっと起訴状を見た後、こう言ったのです。
「ここにもホステスだと書いてありますが、これは間違いでしょう。なぜなら、君は男でしょう。男の場合はホストじゃないんですか。」
ニューハーフの被告人は、それを聞くと、ひどく傷ついたような表情で、
「いいえ、私はホステスです。」と言い張りました。
「でも、英語のホステスは女性形ですよ。男性の場合はホストが正しいんですよ。君が実際は男である以上、ホストでないといけないと思います。ねえ、通訳人の方、そうでしょう。」と、裁判長は、あくまで譲りません。
 私は非常に困りました。確かに英語ではそうですが、日本語の「ホスト」と「ホステス」は英語とは微妙に意味が違います。オカマバーで、女性の格好をしていれば、男性であっても「ホステス」だと言えます。でも、被告人は英語で話している中で「ホステス」という言葉を使ったのだから、その”HOSTESS”という単語を使うことで、自分の性別を偽ることになる、というのが、裁判長の理屈でした。
 結局、被告人の職業は「日本で言うところのホステス」ということで収まったのですが、このエピソードは法廷というところの持つ性質を端的に表しています。「一切誤解の生じる余地のないほど正確に」という目的を達成するために、法廷では普通の常識では考えられないようなやり取りが行われることがあります。

 アメリカの法廷速記記録の中から、実際のやり取りで滑稽極まりないものを選んで本にした人がいます。(Mary Louise Gilman: “Humor in the Court”) その中からいくつかご紹介します。英語で楽しめない方は日本語訳のほうをどうぞ。

Q: Now, Mr. Johnson, how was your first marriage terminated ?
A: By death.
Q: And by whose death was it terminated ?
問:さて、ジョンソンさん、あなたの最初の結婚はどのようにして幕を閉じたのですか。
答:死によってです。
問:どちらが(あなたと奥さんの)亡くなったのですか。

Q: Were you acquainted with the deceased ?
A: Yes, sir.
Q: Before or after his death ?
問:あなたは死者とは知り合いだったわけですね。
答:はい、そうです。
問:(知り合いだったのは)彼が亡くなる前ですか、後ですか。

Q: What happened then ?
A: He told me, he, says,” I have to kill you because you can identify me.
Q: Did he kill you ?
A: No.
問:その後、どうなったのですか。
答:彼はこう言いました。俺の顔を覚えているだろうから、お前を殺さなきゃいけない、と言ったんです
問:彼は、あなたを殺したんですか。
答:いいえ。

Q: Doctor, before you performed the autopsy, did you check for a pulse ?
A: No.
Q: Did you check for blood pressure ?
A: No.
Q: did you check for breathing ?
A: No.
Q: So, then it’s possible that the patient was alive when you began the autopsy ?
A: No.
Q: How can you be so sure, Doctor ?
A: Because his brain was sitting on my desk in a jar.
Q: But could the patient have still been alive nevertheless.
A: It is possible that he could have been alive and practicing law somewhere.
問:先生、司法解剖をする前に、脈を測りましたか。
答:いいえ。
問:血圧は測ったんですか。
答:いいえ。
問:呼吸は。
答:いいえ。
問:それなら、あなたが司法解剖を始めた時には、患者が生きていた可能性があるわけですね。
答:いいえ。
問:どうしてそんなに確信を持って言えるのですか、先生。
答:彼の脳みそがビンに入って私のデスクの上にあったからです。
問:でも、たとえそうだったとしても、やはり彼が生きていたとういう可能性があるのではないでしょうか。
答:彼が生きていて、どこかで法律家の仕事をしているという可能性はありますね。
    (そんなばかげた質問をするあなたがた法律家には脳みそがあるんですか、という皮肉)

いかがでしたか? 
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Makiko Mizuno
エッセイ(異文化伝心)


異文化伝心 (9)
彼女は「彼」?それとも「彼女」?

  私は、ある覚せい剤事件で、フィリピン人被告の通訳をしたことがあります。15年近く前のことで、当時はまだ母国語主義が浸透していず、フィリピン人であっても、私のような英語の通訳人をつけることが多かったのです。
 その被告人の接見のために、弁護人と京都の拘置所へ行った時のことです。
接見室に入って来たのは、目がぱっちりした、とてもきれいな若い女性でした。弁護人は、彼女がどうして覚せい剤を使うに至ったのか、それには情状酌量の余地があるのかどうか、などを知るために、色々と質問をしていきます。

 「あなたはどうして日本に来たの?」と弁護人。
 「フィリピンで知り合った日本人の彼氏に会うためだったの。」と被告人。
 「彼とは一緒に生活していたの?」
 「しばらくはね。」
 「別れたの?」
 「そう。」
 「どうして? 結婚したいとは思わなかったの。」
 「・・・・・・・・」被告人は無言。
 「どうしてなの?」と、弁護人。
 「だって・・・。できないでしょ。」
 「どうして?」
 「わかるでしょ?」
 「・・・・・・・・・」弁護人が無言になる番。
そこで、被告人は意を決したように、日本語でこう言いました。
 「わたし・・・・・オカマよ。」

 それを聞いて、弁護士さんも私もひっくり返りそうになりました。彼女、いや、彼は、本当にきれいで、セクシーだったのです。
 私たちは、あわてて、前もって届いていた起訴状のコピーを見ました。そこには、「○○こと△△△△・△△△△・△△△△」というように、○○というニックネームと本名が書いてありました。そのニックネームは当然のことながら、女性名です。そして、本名のほうは、フィリピン人の名前に詳しくない私も弁護士さんも男か女かわかりません。外国人は名前だけでは性別がわからないことが多いのです。そして、起訴状には性別を書く項目がないのです。日本の裁判制度では、長年、外国人被告人の存在が想定されてなかったわけです。ですから、被告人がニューハーフであることに気づくなど、無理な相談でした。
 さて、彼女、(再び)いや、彼は、人工乳房を付ける手術のあとの経過があまりよくなくて、痛みがあり、それを忘れるために覚せい剤を使っていた、と裁判で言っていましたが、本当のことか、ただの言い訳だったのかは、結局わかりませんでした。
 これは極端な例ですが、法廷で、人の性別の間違いのために混乱が生じるようなことはよくあります。例えば、日本語は、主語をよく省くので、それを英語などに訳す時に、通訳人が自分の描いた勝手なイメージで「彼」とか「彼女」とか言ってしまうことがあります。女性のことを言っていたのに、通訳人に“He”などと言われると、聞いている方は、突然、別の男性が話の中に登場してきたように感じます。
 また、名前自体が性別の混乱のもとになることもあります。例えば、日本人の「○○子」という名前は、海外では男性だと思われることが多いです。「マリオ」のように、男性名がアルファベットのオーで終わるケースが多いからです。
 このような事が起きても、早く気づけばいのですが、少数言語で通訳人以外にそれがわかる人がいなかったりすると、大混乱に陥るまで誰も気づかない、というような事態も起こります。通訳人の軽率な訳のために、法廷で、事件をめぐって、実際とは違う状況が描き出されるなんて、怖いことですね。通訳人にもっと情報を提供する仕組みと、誤解を生じさせない法廷での明快な話し方が、これを防ぐための処方箋です。
(最近は、この点、かなり良くなってきています。)
 
Makiko Mizuno
エッセイ(異文化伝心)


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