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Makiko Mizuno
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異文化伝心 (12) 同音異義語と通訳
同音異義語と通訳
  何年か前、新聞に、ワープロの面白変換ミスのコンテストをするという記事が載っていました。その見出しの言葉は「犬が三毛の一族」でした。もちろん、「犬神家の一族」の変換ミスです。なかなかセンスのある変換ミスです。
 私は外国人のことばの壁をテーマに研究していますが、来日外国人の子どもたちの学校での言葉のバリアについて、こう書こうとしたことがあります。「言葉が通じないことから授業についていけず、不就学になる子供たち・・・」ところが、画面に表れたのは「・・・腐臭が苦になる子供たち」でした。(なぜ、授業についていけないことと、腐った匂いが関係あるの?)
 私の専門は司法通訳ですが、通訳を必要とした刑事事件のことを、「要通訳刑事事件」といいます。それを変換したら「腰痛薬刑事事件」と出てきました。(腰痛の薬がもとになって、殺人事件でも起こったのか??)
 極めつけは、私が10年以上副会長を務めていた「司法通訳人協会」(2006年解散)です。変換して出てきた漢字を見て、完全にズッコケました。「司法通訳任侠会」となっていました。(「任侠」・・・「や くざ」 私たちは『仁義なき戦い』をしていたわけではありません・・・。)
 このように、ワープロのズッコケ変換ミスを笑うことは出来ますが、これと同じことを通訳者がやってしまうことがあります。同音異義語の解釈ミスです。漢字変換の代わりに、外国語への変換ミスが起きるのです。
 同時通訳の草分け的存在で、かの有名なアポロ11号月面着陸のもようの衛星中継を同時通訳した西山千さんも、ご自分がやってしまった通訳ミスについて著書に書いておられます。 
  ある時、宇宙飛行士へのインタビューで、西山さんは、日本人の質問をこう訳しました。
  「宇宙塵はごらんになりましたか。」
 “ Did you see spacemen ?” (宇宙人を見ましたか)
  「宇宙塵」は宇宙空間に存在する微粒子でcosmic dustといいますが、「宇宙塵」を「宇宙人」と間違えたこの通訳ミスは、夢があり、とても微笑ましく、ずっと語り草になっています。
 日本は様々な概念を古代において中国から輸入しましたが、中国語に比べてもともと音のバリエーションが乏しかった上、時代が経るにつれて、ますます母音数が減り、本来は異なる発音を持っていた言葉が同じに聞こえるようになってしまいました。そのせいで、現在のように、同音異義語が氾濫しているわけです。さらに、明治時代に、西洋から近代的な思想や制度を輸入した際に、そこで使われている概念を表現するのに、漢字熟語を多用しました。そのために、同音異義語の数が飛躍的に増えたのです。司法の分野は、それが最も顕著に表れている分野の一つです。
 司法通訳の現場では、慣れないと同音異義語の罠にはまります。「ほうていの」と言われて「法廷の」と「法定の」のどちらであるか、初心者には判断しにくいです。また、法廷でよく使われる「諸般の事情を鑑みて」という表現を「初犯の事情」つまり、「初犯であるという事情」であると勘違いしてしまった人もいます。
 また、「公訴」と「控訴」、「科料」と「過料」、「勾留」と「拘留」のように、よく似ているけれども法律的な意味が全く違う用語もたくさんあります。用語の意味とそれが使われる情況をよく把握しておかないと、間違える可能性が高いのです。
 通訳者は常に文脈を意識しています。同音異義語を正しく判断するには、文脈に頼るしかないからです。「さいきんかんせんした」と聞こえてきたら、「細菌感染した」のか「最近感染した」のか、文脈に応じて考えます。「せいさんざい」と言われたら、経済に関する話であれば「生産財」、薬学に関係があれば「制酸剤」と判断します。

「きのうてきにかんがえる」
「おしょくじけん」
「てんたいしょう」
これらは、私が一瞬勘違いしたことのある同音異義語です。どう間違えたかわかりますか。


 帰納的と機能的    汚職事件とお食事券   点対称と天体ショウ でした。

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Makiko Mizuno
エッセイ(異文化伝心)


「法と言語 学会」設立
 4月11日に、群馬県高崎市の高崎経済大学サテライト・オフィスで、「法と言語研究会」の会合があり、同研究会の学会昇格を決定しました。設立総会は5月17日の午前中に、明治大学(お茶の水)で行われる予定です。
 同研究会は、法というコンテキストの中での言語使用について研究する人たちが2年前に設立した会ですが、裁判員制度が導入される今年を節目とし、学会への昇格を決めました。
 研究分野としては大きく分けて2つあります。1つは純粋な言語学的研究で、2つ目は司法通訳の研究です。後者に関しては、これまで盛んに行われてきた制度論や通訳者の倫理・役割といったアプローチから脱却し、通訳を介したとき言語が裁判の成り行きにどのような影響を与えるかなど、言語学的分析を主とします。
 11日に設立を決定した会合には、NHKの記者の方も来られており、インタビュー行いました。その日のうちに報道されたようです。その後すぐにほかの問い合わせも事務局に入ってきているようで、人々の関心の高さがうかがわれます。
Makiko Mizuno
お知らせ


「湯」イコール"hot water"じゃない!?
「湯」イコール"hot water"じゃない!?

 一般的に通訳者は語学系、文学系の出身者が多く、言葉という意味では専門家であっても、その他の専門分野に関しては全くのしろうとから始めた人が多いです。ですから、通訳者がある分野で正確に通訳をしようと思ったら、相当な事前準備が必要となります。その分野の専門家が何年もかけ、あるいは一生かけて積み上げてきた知識、あるいは、少なくともその知識を表現するに足る語彙を、通訳者は、短期間でマスターしなければならないのです。依頼人の常識が通訳者にとっても常識になるくらいのレベルにまで自分を持って来なければなりません。
 ですから、通訳者は、学術・専門会議などの前には、それに関係するペーパーやドキュメントを出来るだけ多く入手し、読み、頭に入れ、ボキャブラリー・ノートを作成し、それを記憶して本番にのぞみます。時間が充分にある場合は、自分なりに満足のゆく事前準備が出来ます。しかし、そのような状態でのぞんだ場合ですら、100%完璧に通訳ができるということはめったにありません。時には、思いがけないことでつまずくこともあります。
 昔、こんなことがありました。某鉄鋼会社が外国人研修生に対して鉄の圧延工場の設備に関するセミナーを開催しましたが、私を含めて3人の通訳者が派遣されました。分厚い英語の説明書を事前に配布され、”billet”(圧延前の鋼片)などといった専門語彙のチェックも行われました。
 さて、本番となり、講師の方が、図を示しながらいろいろと説明をし、それを逐次で通訳するという作業が始まりました。ある場面で、講師の方が図の一部を指して、「ここの部分に湯を流し込みます。」と言いました。その時訳していた通訳者が(幸い、私ではありませんでした)、”We pour hot water here." と言いました。それを聞くやいなや、
「ホット ウォーターじゃないよ。」
と講師の方がとがめました。
「でも『湯』とおっしゃったと思いましたが。」
と通訳者が言うと、
「ここで『湯』と言えば、溶かした鉄のことですよ。お湯なんか入れたら大変なことになりますよ。」 
と、講師の方は、通訳者の常識を疑うような表情をみせたのです。
 確かに、三省堂の『大辞林』で「湯」を引くと、第4番目の定義として「金属を溶かして液状にしたもの」と出ています。でも、一般人である通訳者にとっては、「湯」とは熱い水のことでしかありません。状況から考えたらこんなところにお湯を注ぐわけはない、と言われるかもしれませんが、その状況にしたって通訳者に完全に把握することを期待しても無理なのです。『湯』と言われて溶かした鉄をすぐに思い浮かべることのできる人は、ほんの限られた専門家にすぎません。
 このように、言葉の一般的な使い方と、業界内の特殊な使い方が違っているケースは多く、通訳者にとって大きな落とし穴になることがあります。このような例については、今後、少しずつご紹介します。

Makiko Mizuno
エッセイ(通訳のジレンマ)


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