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Makiko Mizuno
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ソマリア海賊 裁判の壁
 あまり話題に上ってはいない事件ですが、日本の商船を襲ったソマリア人の海賊3名が逮捕され、未決拘留中です。裁判員裁判にかけられる予定ですが、通訳人が見つからないという理由で、3か月以上、開廷ができないままの状態です。

 少数言語の場合、通訳人がなかなか見つからないのはよくあることです。この場合もソマリ語の通訳ができる人材がいないということですが、そのような場合、通常は被告人の国の大使館などに連絡して、通訳できる人を派遣してもらうという手段が取られるようです。ところが、ソマリアは政府自体がほとんど機能していない国で、日本に大使館などありません。つまり、裁判所としては、全くのお手上げ状態なのです。

 この事件で思い出したのが、聴覚障害者が被告人だった「森本さん事件」です。被告人は、ある事務所から600円を盗んで捕まったわけですが、手話の訓練を受けていず、人とコミュニケーションを取る術を持っていませんでした。彼に対しては、守秘義務すら告知することができず、結局、裁判が停止になったまま、亡くなるまで20年近くもの歳月を「被告人」という立場のまま送ることになったのです。

 今回の海賊たちも、通訳人が見つかるまで、ずっと未決拘留のままでいることになるのでしょうか。国際関係という視点からも、それは無理なことでしょう。裁判所も何らかの対処をしなければなりません。韓国ではソマリ語から英語、英語から韓国語と、リレー通訳を行ったということです。日本もそれしかないかもしれません。

 そのようなリレー通訳をする場合は、被告人が第2言語である英語に精通していることが条件となります。使いこなせもしない言語で証言することを強要することはできません。
国際人権自由権規約の第14条は以下のように定めています。

 3 すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。
 (a)その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること。
 (f)裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。

つまり、英語が「その理解する言語」と言えるほどのレベルにない場合は、彼らは母語であるソマリ語の通訳の援助を受ける権利があるということになります。

 では、仮にソマリ語の通訳人を見つけることが完全に不可能で、海賊たちが理解する言語がソマリ語以外にはない、ということになったらどうなるのでしょうか。

 1960年代にアメリカでこんな事件がありました。ドナルド・ラングという聴覚障害者が殺人事件を起こして起訴されましたが、この人は手話等のコミュニケーション手段を持っていませんでした。結局、精神障害者と同様に訴訟不適格とされ、措置入院をさせると同時に手話を学ばせるようにするという決定がなされようとしていました。ところが、弁護人が、裁判が行われれば、無罪の可能性もゼロではないし、有罪であっても、司法取引その他で刑期が短くなる可能性があるのに、そういう形での措置入院だと、被告人は永久に拘束されてしまう、それでは終身刑になってしまうので不公正だ、と主張しました。そういうことで争っていたわけですが、結局、一番重要な証人が死亡してしまし、裁判ができなくなって被告人は釈放されました。ところが、それから間もなく、被告人は再び殺人事件を起こしてしまったのです。

 コミュニケーション手段がなく裁判ができないからといって、精神障害者と同様に、有無を言わせず施設内に監禁してしまうのは人権侵害です。しかし,かと言って、危険な人物を自由にしてしまうのは社会にとってのリスクです。この2つを天秤にかけた場合、どちらが重いでしょうか。これは大変難しい問題です。

 今回の海賊の事件ですが、彼らは自分の国籍や年齢すらはっきり知らないということですし、人定質問自体が成り立たない可能性もあります。言葉の壁以外にも多くの壁が存在しているようです。まるでパイレーツ・オブ・カリビアンの時代からタイムスリップしてきた人たちを扱っているようなものなのでしょう。





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Makiko Mizuno
エッセイ(一般)


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