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Makiko Mizuno
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異文化伝心(6) その行為は「強盗」?それとも「お祭り」???
その行為は「強盗」?それとも「お祭り」???

 英語で“Cultural Defense”という表現があります。日本語では、「異文化による防御」とか「異文化抗弁」のように訳されています。誰かが何か犯罪を行った際に、文化に特有の理由を挙げて、その犯罪を正当化したり、罪の軽減理由にしたりするときに使われる表現です。例えば、何らかの挑発を受けて激怒状態に陥り、人を殺してしまったような場合、その元となった行為が、ある文化に属する人たちにとってのみ、挑発にあたるような時、それを「異文化抗弁」として罪の軽減を求めたりするのです。
 多文化社会であるオーストラリアやアメリカでは、この概念が裁判関係者の間でかなり浸透しています。例えば、1983年にオーストラリアで起こった「Dincer事件」と呼ばれているケースはその典型例です。16歳の自分の娘がアングロサクソン系の男友達と性的関係を持ったことを知ったトルコ系イスラム教徒の父親が逆上して、男友達の面前で娘をナイフで刺殺してしまったという事件ですが、裁判所は「挑発」があったと認めました。イスラム教徒の男性にとって、「娘の純潔」というものが、いかに大切であるかということ、そして、異教徒である男性との性的関係がいかに許しがたいものであるかということが、裁判所によって認められたということです。
 アメリカで「異文化抗弁」が問題になり、日本でも話題になった事件がありますが、それは日本人母子の無理心中事件です。母親が子供を道連れに死のうとしたのですが、子供は死に、自分だけ助かったという事件です。アメリカの法廷では、子供を残していくのはしのびないので自分と一緒にあの世へ連れて行く、という日本人的な愛情の形は、罪を軽減する理由としては認められませんでした。単なるエゴイスティックな殺人であるとされました。自分も一緒に死ぬからといって、子供を殺す権利はないということです。
 日本にも、多くはありませんが、このようなケースが存在します。知り合いの弁護士さんから、こんな話を聞きました。
 あるナイジェリア人が、日本からお金を奪ったという事件でしたが、お金を奪う際に、彼は、台所から包丁を2本持ってきて振りかざして、日本人を脅したというものでした。これは、日本では当然、強盗罪です。実は、この加害者と被害者は友人でした。一緒に商売を始めようということになり、日本人が資金を用意して見せたところ、ナイジェリア人が突然、そのような行為に出たのでした。
ところが、裁判が始まると、このナイジェリア人は、自分は強盗なんか決してしていないと主張しました。彼の理由はこうです。彼はナイジェリアのイボ族出身で、彼の部族は「ヤム・フェスティバル」と呼ばれる特別なお祭りをする。主食のヤム芋の収穫期に、2本のナイフを振りかざして踊る。1本が古いヤム芋、もう1本が新しいヤム芋を象徴し、収穫を迎えて新しいヤム芋が古いヤム芋に取って代わることを祝うのだ。だから、自分が包丁を振りかざしたのは、日本人の友人を脅したのではなく、お金が出来たことをお祝いしたつもりだった。お金を持っていったのは、友人の間では、自分のものは相手のもの、相手のものは自分のものというルールがあるからだ。
 これは、とてもユニークで面白い正当化です。私が裁判長だったら、ユーモア賞として、無罪放免にしてしまうかもしれません。でも、もちろん、現実はそれほど甘くはありません。裁判所は一応、民俗学者に意見を求めたようですが、そのような祭りが存在するというはっきりとした確証もなく、このことが、罪を軽減する理由とはならなかったようです。
 この事件のことを司法関係者に話すと、必ずといっていいほど、「ここは日本ですよ。」という反応が返ってきます。「日本の常識に従ってください。」というのが、多くの人の考えでしょう。たしかにそうです。でも、内なる国際化が進み、様々に異なる「常識」が混在するような社会になってきたら、もう、「日本の常識」と言ってばかりいられなくなるでしょう。
 通訳者は「言葉」の橋渡しをします。それは「文化」の橋渡しをすることに他ならないし、もっと言えば、「常識」の橋渡しをすることにもなります。例えば、法廷で「異文化抗弁」に遭遇した通訳者は、それをばかげた言い訳だと受け止めるかもしれないし、根拠のある正当な理由であると考えるかもしれません。そして、通訳者自身の受け止め方によって、通訳内容は微妙に変わるものです。文化に特有の「常識」をしっかり把握しておくことも、正しい通訳にとって不可欠な要素なのです。


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Makiko Mizuno
エッセイ(異文化伝心)


 
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