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Makiko Mizuno
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異文化伝心 (9)
彼女は「彼」?それとも「彼女」?

  私は、ある覚せい剤事件で、フィリピン人被告の通訳をしたことがあります。15年近く前のことで、当時はまだ母国語主義が浸透していず、フィリピン人であっても、私のような英語の通訳人をつけることが多かったのです。
 その被告人の接見のために、弁護人と京都の拘置所へ行った時のことです。
接見室に入って来たのは、目がぱっちりした、とてもきれいな若い女性でした。弁護人は、彼女がどうして覚せい剤を使うに至ったのか、それには情状酌量の余地があるのかどうか、などを知るために、色々と質問をしていきます。

 「あなたはどうして日本に来たの?」と弁護人。
 「フィリピンで知り合った日本人の彼氏に会うためだったの。」と被告人。
 「彼とは一緒に生活していたの?」
 「しばらくはね。」
 「別れたの?」
 「そう。」
 「どうして? 結婚したいとは思わなかったの。」
 「・・・・・・・・」被告人は無言。
 「どうしてなの?」と、弁護人。
 「だって・・・。できないでしょ。」
 「どうして?」
 「わかるでしょ?」
 「・・・・・・・・・」弁護人が無言になる番。
そこで、被告人は意を決したように、日本語でこう言いました。
 「わたし・・・・・オカマよ。」

 それを聞いて、弁護士さんも私もひっくり返りそうになりました。彼女、いや、彼は、本当にきれいで、セクシーだったのです。
 私たちは、あわてて、前もって届いていた起訴状のコピーを見ました。そこには、「○○こと△△△△・△△△△・△△△△」というように、○○というニックネームと本名が書いてありました。そのニックネームは当然のことながら、女性名です。そして、本名のほうは、フィリピン人の名前に詳しくない私も弁護士さんも男か女かわかりません。外国人は名前だけでは性別がわからないことが多いのです。そして、起訴状には性別を書く項目がないのです。日本の裁判制度では、長年、外国人被告人の存在が想定されてなかったわけです。ですから、被告人がニューハーフであることに気づくなど、無理な相談でした。
 さて、彼女、(再び)いや、彼は、人工乳房を付ける手術のあとの経過があまりよくなくて、痛みがあり、それを忘れるために覚せい剤を使っていた、と裁判で言っていましたが、本当のことか、ただの言い訳だったのかは、結局わかりませんでした。
 これは極端な例ですが、法廷で、人の性別の間違いのために混乱が生じるようなことはよくあります。例えば、日本語は、主語をよく省くので、それを英語などに訳す時に、通訳人が自分の描いた勝手なイメージで「彼」とか「彼女」とか言ってしまうことがあります。女性のことを言っていたのに、通訳人に“He”などと言われると、聞いている方は、突然、別の男性が話の中に登場してきたように感じます。
 また、名前自体が性別の混乱のもとになることもあります。例えば、日本人の「○○子」という名前は、海外では男性だと思われることが多いです。「マリオ」のように、男性名がアルファベットのオーで終わるケースが多いからです。
 このような事が起きても、早く気づけばいのですが、少数言語で通訳人以外にそれがわかる人がいなかったりすると、大混乱に陥るまで誰も気づかない、というような事態も起こります。通訳人の軽率な訳のために、法廷で、事件をめぐって、実際とは違う状況が描き出されるなんて、怖いことですね。通訳人にもっと情報を提供する仕組みと、誤解を生じさせない法廷での明快な話し方が、これを防ぐための処方箋です。
(最近は、この点、かなり良くなってきています。)
 
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Makiko Mizuno
エッセイ(異文化伝心)


 
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