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Makiko Mizuno
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木枯し紋次郎
木枯し紋次郎

 フジテレビ金曜プレステージで「江口洋介主演の「木枯し紋次郎」が放映されました。笹沢佐保の原作を 1972年に市川昆監督が連続ドラマ化し、それまでになかったニヒルなヒーローを当時無名だった中村敦夫が演じて一世を風靡した、あのドラマのリメイクです。当時中学生だった私は、このドラマに完全にハマってしまい、”I have nothing to do with it.”という英語の構文を「あっしにはかかわりのねぇこって」と訳していたのを思いだします。
 ところで、この「あっしにはかかわりのねぇこって」というセリフですが、どのように訳したらニュアンスが伝わるのでしょうか。色々と考えました。

I have nothing to do with it.
I don’t wanna get involved.
I’m not concerned about it.
これらはみな、’I’ が主語になっていて、主体がはっきりしています。「私は」それには関わりを持っていない。あるいは関わりを持ちたくない、という意志が感じられます。「あっしはかかわりを持たねぇんで(持ちたくねぇんで)」という感じなのです。ところが、紋次郎のセリフは、運命に逆らわず「死ぬ時には死ぬ」という生き方をしている人物像も考え合わせると、流れに身を任せた、もっと受身的なニュアンスを感じさせます。

That’s none of my business.
It doesn’t concern me.
これらのような表現にすると、主語は ’I’ ではなくなりますが、「知ったことじゃない」というように、ちょっと突き放した感じになってしまいます。

 ドラマなどの決めゼリフは、それ自体特別のニュアンスを持っており、独特の雰囲気をかもし出しています。ニュアンスが占める部分が大きければ大きいほど、通訳や翻訳は非常に難しくなります。
 有名な映画「カサブランカ」の名ゼリフ”Here's looking at you, kid”が「君の瞳に乾杯」と訳されたことについても、名訳であるか完全な誤訳であるのか、色々と賛否両論です。プロの翻訳家は、もし「あっしにはかかわりのねぇこって」を訳すことになったら、思い切った誤訳をしてでも、場の雰囲気を出す努力をするのでしょう。でも、どんな訳をつけても、人それぞれ感じ取り方が異なるので、読者(あるいは視聴者)の感性と翻訳家自身の感性との間にギャップがある以上、完璧な訳出はありえないのです。
 ところで、「木枯し紋次郎」というタイトルが ’Cold wind Monjiro” と英訳されていましたが、あまりにも安直な英訳だと思いました。「冷たい風の紋次郎」になってしまいます。「木枯し」という言葉は「初冬の寒さ」「わびしさ」「物悲しさ」のニュアンスを多分に持った言葉です。また、このタイトルは「木枯しのような紋次郎」とも「木枯しのような境遇にいる紋次郎」とも受け取れる表現ですが、それをどう受け止めるかも、読者あるいは視聴者の感性に任されています。ですので、これを英訳するのは大変難しい作業です。
 ’Lonely Monjiro in Wintry Wind(紋次郎はひとり、木枯しの中に)!のように、ニュアンスを意識して訳しても、ここまではっきり「淋しいlonely」と言い切ってしまうのも問題があるし、「冬の風の中in Wintry Wind」と言ってしまうと、in という前置詞があるために、位置が固定してしまいます。さらに、冬という言葉も具体的過ぎ、はっきり言って、最悪の訳出に思えてきます。
 では、発想を変えて「無宿渡世人 紋次郎」というようなタイトルにしてはどうかと思ったのですが、ここでも大きな問題が発生します。「無宿渡世人」にあたる英語はないのです。homeless, wanderer, vagabond, tramp,  gambler・・・これらの表現のどれを取っても、江戸時代という特別な時代背景の中で生じた特殊な生き方である「無宿渡世人」のイメージを描き出すことはできないのです。 
 そうなってくると、一番無難なのは、やっぱり、’Cold wind Monjiro’ のような、どうとでも取れる表現なのかもしれません。でも、私が英語のタイトルを考えるように言われたら、おそらく、単純に ’Monjiro’ にすると思います。考え過ぎて深みにはまるよりは、このほうがいいのではないでしょうか。

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Makiko Mizuno
エッセイ(通訳のジレンマ)


 
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