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Makiko Mizuno
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大阪で初の要通訳裁判員裁判傍聴記(2)
 ポーランド人被告人の裁判員裁判2日目は、弁護人の被告人質問で始まりました。40分間で終了し、15分の休憩の後、検察官の反対尋問が始まりました。かなり長い時間がかかり、1時間近く経過したところで、裁判長から、質問が長くなりすぎることに対する懸念が述べられました。でも、検察官はあと20分ほどであると言い、それに対して通訳人もまだ大丈夫だと表明したことから、休憩なしで、最終的には75分ほど続くことになりました。

 この反対尋問の通訳は、とてもスムーズとは言えないものでした。通訳人は非常に日本語がうまい人でしたが、75分間もぶっ続けで通訳していると、当然疲労が蓄積してきます。日本語も所々、わかりにくくなってきましたし、全体の流れにとどこおりが見られ始めました。

 検察官の質問の後半部分は、被告人の応答がだんだんおかしくなってきました。質問に対する答えの焦点がずれていくのです。例えば、被告人に対して「あなたは元々供述調書の内容をしっかり理解していたからこそ、色々訂正を申し立て、最終的に内容を確認の上で署名しましたね」という質問に対し、被告人は、自分がどういう部分を訂正したのかとか、重要なのに無視されていたことを調書に入れてもらったとか、英語で行った部分は内容が確認できないのでサインしなかったとか、延々とその訂正の経緯について語り続け、この部分に大変な時間がかかりました。もし、調書の内容が間違っていると言いたいのなら、「訂正できなかった部分がまだたくさんありました」とか、「早くサインするように言われ、訂正する勇気がありませんでした」、というような方向に持っていく方が自然です。どうも、聞かれているポイントが通じていなかったようです。

 また、この事件の争点は、恋人を殺すと脅迫されて、仕方なく覚せい剤を日本に運んだという被告人の主張が正しいかどうかですが、この恋人と、彼女を殺すと脅した人物が知り合いであったかという質問に対し、被告人の答えは全く的外れでした。それぞれの人物について、自分との関係を色々と語り始めたのです。検察官が苛立って、もう一度同じ質問をしましたが、やはり同様の現象がおこりました。3回目に同じ質問をしてはじめて、「いいえ、知り合いではありません」という答えが返ってきました。

 これは、明らかに通訳の誤りです。日本語は主語が省略されるので、通訳者はいつもそれを補って考えます。その習慣に基づき、今回の通訳人は、「AとBは知り合いでしたか」を「(あなたは)AとBとは知り合いでしたか」の主語が省略された形だと考えてしまい、ポーランド語で「あなたは」という主語を補って訳したのでしょう。普通に日本語で「AとBは知り合いでしたか」と言った場合、実際、状況によってはそういう意味になります。そう考えると、被告人のおかしな応答も十分納得がいきます。

 問題は、検察官の質問全体を通して上記のようなやり取りが続いたことから、被告人は質問にストレートに答えず、はぐらかそうとしているのだという印象を与えてしまったのではないかということです。実際、法廷で聞いていると、そのように感じました。イエス、ノーで答えられるような簡単な質問にどうして普通に答えないんだろう、と思った人も多かったのではないかと思います。通訳が微妙に的外れであると、そういうやり取りになるのはごく当り前なのです。

 私は通訳人を責めているのではありません。大変な緊張を強いられる通訳を、一人であれだけ長時間させられれば、誰でもうまく訳せなくなります。非常に実力のある通訳者でも、疲労には勝てないのです。もし通訳者に責任があるとすれば、裁判長が「まだ大丈夫ですか」と尋ねた時に、「もう少しなら大丈夫です。」と、休憩無しに通訳を続けたことです。休憩は自分のためのものではありません。正確な通訳のためのものなのです。そして、裁判員裁判のように長時間かかる裁判では、通訳人は絶対に2人以上必要なのです。

 今回の裁判で、裁判官から、「聞かれたことだけに答えるように」という注意が、被告人に対して再三行われました。「聞かれたこと」と言っても、その内容は、通訳の介在によって、元々の日本語とは異なっているかもしれないことに、法律家が思いを至らせるのは難しいようです。
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Makiko Mizuno
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